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『絶対言わなそう』と『実は言ってない』 ─ キャラがブランドを超える瞬間

 

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はじめに ─妻の「ひとことモノマネ」から始まったブランド考察の旅

我が家では、ときおり唐突に “ネタのような言葉” が飛び交う。

ある晩、仕事を終えて帰宅すると、妻がふいにこう言った。

「えなりかずきが絶対言わなそうな言葉。・・・先にシャワー浴びてこいよ。」


振り返ると、彼女は自信満々な顔でキメていた。

その一言に、思わず笑ってしまった。 真面目で丁寧な口調のイメージが強い “えなりかずき” が、急にチャラついた男っぽい台詞を口にする ─そんな “違和感のギャップ” に、私たちは反射的に笑ってしまう。

けれど、何度かそのネタを繰り返されるうちに、私はコンサルタントとしての職業柄、ふとある問いが湧いた。

なぜ「言わなそう」がこんなにおかしいのか? なぜ、この“違和感”に、人はこれほど強く反応するのか?


気になって元ネタを調べてみると、どうやら数年前のバラエティ番組で使われていたもので、SNSなどでも「共感ネタ」として一定の広がりを見せていたようだ。

さらにその流れで見つけたのが、もうひとつの関連事象。

 

「木村拓哉の“ちょ待てよ”は、実はモノマネ芸人が作ったものだった」

 

これにはさらに驚かされた。あれだけ耳に残るフレーズなのに、実は “本人は言っていない” か、言っていたとしてもその記憶が “誇張された” ものだったというのだ。

 

 

このとき、私の中でピンとくるものがあった。それは、どちらの事象にも共通して「実像を超えてイメージが一人歩きしている」という構造があることだ。

 

第1章:「絶対言わなそう」の構造 ─ イメージの囲い込みと共犯的消費

えなりかずきという人物の “キャラ” は、極めて記号的である。子役から長く活躍し、丁寧な口調と礼儀正しさ、知的な印象。それらが長年の露出を通じて強固にイメージ化されている。

 

 

このイメージがあるからこそ、「先にシャワー浴びてこいよ」のような “チャラい” セリフとのギャップが滑稽さを生む。

 

 

ここで重要なのは、実際に本人が何を言ったかではなく、

視聴者が「この人はこうであるべき」と思っているイメージ によって発言が「言いそう/言わなそう」に分けられているという点である。

 

この構造は、ブランディングにおける「ポジショニング」そのものだ。ブランドとは、企業が語るものではなく、顧客が期待する姿である。

 

 

えなりかずきが「言わなそう」とされる背景には、彼の発言・行動の蓄積があるだけでなく、それを “共有された前提” として笑う、視聴者側の共犯性がある。

 

 

つまり私たちは「ブランド=イメージの記号化」に対して、無意識に加担しているのだ。

 

この“イメージの固定化”は、企業ブランドにおいても頻繁に起きる現象だ。

 

 

 

一度ついた「誠実な会社」「革新的なブランド」という印象は、実際の中身よりも強く人々の判断に影響を与える。たとえ戦略を変え、サービス内容が変わったとしても、過去の印象が “ブランドの鎧” となってまとわりついてくるのだ。

 

第2章:「実は言ってない」の真実 ─ 模倣がオリジナルを上書きする

一方、木村拓哉というスターもまた、強いブランドイメージを持っている。

 

 

その彼の定番フレーズとして知られる「ちょ、待てよ」が、実はモノマネ芸人によって作られた “創作” であるという事実は衝撃的だ。

 

本人が言っていないのに、「らしい」と思われたフレーズが、世間の中で本人の代名詞として定着していく。

 

ここには「模倣が本物を上書きする」情報の力学が存在する。

 

 

モノマネ芸人は、本人の発言を忠実に再現するのではなく、「最もそれっぽい断片」を抽出し、誇張してみせる。それがウケることで「らしさ」が世間に流布し、やがてそれが“本人らしさ”として定着していく。

 

情報とは、必ずしも事実を伝えるものではない。繰り返されることで “現実” を形成する。

 

これは企業ブランディングにおける「ユーザーの発信がブランドを形成する」構造に極めて近い。

 

 

たとえば、ユーザーが勝手にアレンジして広めたキャッチコピーや、バズった誤用が、企業の公式より強い力を持ってしまうことがある。

 

 

 

そうした “ユーザーが作るブランド像” こそ、現代的なブランド構築のリアルなのだ。

 

第3章:キャラがブランドを超える ─ 消費される “記号” の力学

 

ここで、えなりかずきと木村拓哉の現象を対比してみよう。

 

 

えなりかずきのケースは、ブランドが「逸脱」すると違和感となって笑いが生まれる構造。

 

木村拓哉のケースは、ブランドが「模倣」され、実像を上書きしていく構造。

 

どちらも、実像よりも“イメージの繰り返し”によって形成された認知の力が強く作用している。

 

 

これはまさに「ブランドが人格化された記号」として機能している例であり、そこでは真実よりも“らしさ”が重視される。

 

 

 

この現象を意図的に活用することで、企業は「偶像としてのブランド」を設計できるようになる。

 

 

第4章:経営における「記憶支配」の戦略

ここからは、実際のブランド戦略や経営の意思決定に応用可能なポイントを整理していく。

 

1. ズレは価値になる ─「違和感」が共感を生む時代


ブランドが「完全な整合性」で形成される時代は終わった。むしろ、小さなズレや違和感が人々の記憶に残る。

Appleが「Think Different」と言いながら保守的な製品ラインを続けたり、ユニクロが高級ブランドとコラボしたり。

 

 

こうしたズレは、ブランドの“奥行き”として受け入れられる。

 

違和感は、記憶と共感の入り口である。

 

 

2. 模倣されることは、記憶に残ること


キムタクの「ちょ待てよ」現象が示すように、模倣されることで記号は強化される。

これは企業にとっても重要な示唆だ。

 

 

企業の理念やビジョンは、他者に語られ、模倣されて初めて広がる。

 

 

 

3. 顧客の記憶がブランドの主人公になる


最も重要なのは、ブランドの主人公は“自分たち”ではなく“顧客”であるということ。

 

 

ブランドとは「言ったこと」より「言ったことにされたこと」の集合である。

 

 

SNSや口コミの時代において、企業の本音よりも、ユーザーの解釈が先に届く。

 

おわりに ─「ブランド」は誰の手でつくられているのか?

一見、笑い話のような「えなりかずき」と「木村拓哉」の事象。

しかしそこには、現代のブランド形成における本質が凝縮されている。

  • ブランドは、事実よりも“それっぽさ”で広まる。

  • イメージは実像を超えて、一人歩きする。

  • 顧客の記憶こそが、ブランドをかたちづくる。


つまり、ブランドは企業や個人が一方的につくるものではない。

“見られ方”や“語られ方”といった、他者の記憶の中で構築されるのだ。


そう考えると、妻がふいに口にしたあのセリフ──

「えなりかずきが絶対言わなそうな言葉……先にシャワー浴びてこいよ」

 ─も、単なる家庭内のネタでは済まされない。

むしろ、ブランドというものが、どのように人々の中で生きていくのかを示す、ひとつの具体例だったのかもしれない。

 

日常のなかで繰り返される、ほんの些細なフレーズ。


それが、やがて誰かの記憶に根を張り、“らしさ”として定着していく。

 

そんな現象の背後にある構造を理解し、意識的に設計していくこと。


そこにこそ、これからのブランディングのヒントがある。

 

あなたの「ちょ待てよ」は誰が設計していますか?

ブランドは、意図せず“記号化”されていきます。あなたや貴社のイメージが、いつの間にか顧客によって定義されていないでしょうか?
「伝わり方」の構造を意識することで、ブランディングは変わります。

戦略的にブランドを構築したい方は、こちらからご相談ください。