「採用のミスは教育では補えない」─理念と“志”でつくる経営と教育の未来

 ゲスト:組織変革コンサルタント・内田貴久さん(株式会社ファイブベイ 執行役員)

 

 

 

 

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1. はじめに─ “志” が交差する場所で

現代社会では、企業経営と子どもの教育が別々の領域として語られることが多いのですが、実は両者は「人づくり」という共通のテーマで深く結びついています。この二つをつなぎ合わせる取り組みが「志授業」です。

 

 

今回のインタビューでは、企業の組織変革コンサルタントとして活躍しながら、全国各地で志授業を牽引されている内田貴久さんにお話をうかがいました。内田さんは、地方都市での教育支援から大手企業の人材戦略まで幅広く関わり、「志」を核とした組織開発を実践されています。本記事では、「教育」と「経営」の交点に立つ“志の力”を、具体的な事例とともにご紹介したいと思います。

 

 

インタビューの背景と目的

企業が成長していくためには、優秀な人材の確保・育成が欠かせません。特に少子高齢化が進む地方都市では、人材流出や後継者不足が深刻な課題となっています。一方、学校教育の現場では、「何のために働くのか」「どのように生きるか」といった根本的な問いを十分に扱う時間が限られており、子どもたちのキャリア意識や自己肯定感の形成が後回しになりがちです。

 

 

こうした状況を背景に誕生したのが「志授業」。企業経営者が教育現場に入り、自らの経験や想いを子どもたちに語ることで、「憧れられる大人」の姿を示し、子どもたちの未来志向を刺激します。これは単なる一方的な講演ではなく、「対話」と「共創」を重視する教育手法です。

 

 

本インタビューでは、各界で挑戦を続けるリーダーの生の声や取り組みを深掘りし、経営者やビジネスパーソンにとっての示唆を見出すとともに、教育と経営の境界を越えた「志」をテーマに、内田貴久さんの活動と思想を余すところなくご紹介します。

 

2. 子どもたちは「憧れる大人」を探している

 

志授業の誕生と拡がり

志授業は、内田さんの師匠であるコンサルタントが岐阜県の企業から依頼を受けて立ち上げた取り組みに遡ります。当初は地域活性化の一環として企業経営者が学校を訪れ、キャリア教育や起業家精神を伝えるプログラムとしてスタートしました。しかし、現場で子どもたちの目が輝く瞬間を目撃した先生方や保護者から「教育の本質に直結している」との声が広がり、一般社団法人として組織化されるに至ったのです。

 

 

現在では、岡山・鳥取・兵庫など全国各地に志授業の輪が広がり、自治体や学校、企業の協力体制が築かれています。特に注目されるのが秋田県での取り組みです。同県では人口減少に苦しむ中、「秋田を残せないなら秋田魂を残そう」という合言葉のもと、地元企業や教育関係者が一丸となって志授業を展開し、地域への誇りを育んでいます。

 

 

秋田で起こった教育×経営の化学反応

秋田県は一時期、「消滅可能性都市」として注目を集めましたが、そこから逆手にとった挑戦が始まりました。経営者が「地域を発展させる力を子どもたちに伝えたい」「秋田魂を次世代に継承したい」と志を掲げ、自ら学校の体育館や講堂に立ち、子どもたちに自身の事業や人生観を語る授業をスタートさせたのです。

 

 

授業では、経営者が自身の経験や失敗談を織り交ぜながら、「なぜこの仕事を選んだのか」「どんな想いで経営を続けているのか」をリアルに伝えます。子どもたちは講演だけでなく質疑応答を通して、「自分にはどんな可能性があるのか」「地域でどんな未来を描けるのか」を考える機会を得ました。この取り組みがメディアで取り上げられると、全国の自治体や企業にも影響を与え、志授業のフォーマットを採用する動きが加速しました。

 

 

「憧れる大人」がいない教育空白を埋める

内田さんは、小学生や中学生たちと接する中で、子どもたちが「テレビやネット上のヒーローには憧れるが、身近な大人には憧れを抱きにくい」と感じる現実を痛感しました。「私自身も子どもの頃、近くに「こんな大人になりたい」と思える人がいなかった」と振り返る内田さん。その経験が、志授業への想いをさらに強くしたといいます。

 

 

学校の先生は学問指導や進路指導を行いますが、企業経営者が直面する葛藤や挑戦、日々の意思決定の場面を子どもたちに伝える機会は限られています。そのため、子どもたちは「将来、どうやって生計を立てるのか」「何のために働くのか」といった本質的な問いに答えを見つけにくい状況に陥りがちです。志授業は、こうした教育の空白を埋める大きな役割を果たしているのです。

 

 

内田さんはこう話します。「子どもたちにとって「憧れられる大人」とは、単に近くにいる存在ではなく、その背中から夢や志を感じられる人です。その背中を見せることで、子どもたちの希望や自己肯定感を育んであげたいと思っています。」

 

3. 自己肯定感の回復装置としての「志」

 

内田さん自身の原体験

内田貴久さんは、かつて自己肯定感が低く、自分に自信が持てなかった少年時代を過ごされたそうです。家庭や学校で期待に応えられず、自分の存在意義を見つけられずにいたことに苦しんでいました。そんな内田さんにとって、夢や目標を語るクラスメイトの姿はまぶしく映ったといいます。ただ、そのまぶしさの裏側には、「自分には誇れるものがない」という強い思いがあったのかもしれません。

 

僕は、自分を評価してくれる大人に恵まれず、何をしても報われる気がしませんでした。だからこそ、夢を目を輝かせて語るクラスメイトを見て、何とも言えない憧れと同時に、自分の無力さを突きつけられる気がしたのです。」

 

 

 

この経験が、のちに「自分が経験して学んだことを子どもに伝えたい」という想いとなり、企業経営を学ぶ原動力にもなったそうです。

 

 

目的と目標の違いを知ることの意味

志授業では、まず「目的」と「目標」の違いをしっかりと理解することから始めます。多くの子どもは「将来の夢=目標」と捉えがちですが、内田さんはこう説明します。

 

 

「目標は、到達可能なステップ。一方で、目的は人生をかけて追い求める根本的な価値観です。『なぜそれをやりたいのか』『誰のためにそれをやるのか』という問いに行き着くのが目的です。」

 

例えば、「ケーキ屋さんになりたい」という目標を持つ子どもに対して、内田さんはまず「なぜケーキ屋になりたいのか?」「どんな人の笑顔を想像しているのか?」と問いかけます。これを深掘りすることで、「地域のお年寄りを喜ばせたい」「家族みんなの笑顔を守りたい」といった目的が浮かび上がります。目的が明確になると、目標に向かう動機づけが強化されるだけでなく、挫折を経験したときにも「そもそもの目的」が支えになります。

 

 

内田さんは続けてこう話します。

 

「目的を持つと、自分の存在意義や行動指針がクリアになります。子どもたちが『何のために学ぶのか』『何のために頑張るのか』といった問いに真剣に向き合うことで、自己肯定感を取り戻していくんです。」

 

 

このプロセスを通じて、子どもたちは自分の価値を再発見し、やる気に満ちあふれるようになります。だからこそ内田さんは、志授業を「教育の回復装置」と呼んでいます。

 

 

実際の授業現場で見られる変化

志授業を受けた子どもたちの反応は非常にポジティブです。授業の最初は緊張した表情を見せる生徒も、「目的と目標」の違いをワークショップで深掘りすると、みるみる表情が変わり、目が輝き始めます。

 

 

ある中学校では、「ケーキ屋になる」という目標を持っていた生徒が、ワークを通じて「地域の高齢者の孤独をケーキで癒したい」という目的を言語化し、その後地域ボランティアと連携するプランを自ら提案した事例もあります。また、志授業がきっかけで、校内の先生や保護者が子どもたちの夢や志に対して積極的にフォローアップする体制が整備された学校もありました。

 

 

内田さんは笑顔でこう話します。

 

 

「子どもたちの目の輝きが見える瞬間が、私にとって何よりの喜びです。その輝きこそが、志授業に関わる大人たちを突き動かすエネルギーなのです。」

 

4. 経営における “志” の必要性

 

人材ミスマッチの根本問題

企業が抱える採用や育成の課題は尽きません。特に地方の中小企業では、求人をかけても応募者が少なく、採用したとしても早期離職やミスマッチが発生しやすい状況が続きます。内田さんはその原因を、「スペックやスキルだけで人を評価しているから」だと指摘されます。

 

「企業側が『この資格がある人材が欲しい』『このスキルを持っている人を採りたい』と条件だけで人を選ぶと、入社後に企業文化や価値観とのズレが原因で離職してしまいます。つまり、『採用のミスは教育では補えない』という言葉通り、根本的な価値観のズレがすべての始まりなのです。」

 

いくら研修や教育に力を入れても、価値観や人生理念がずれている人材を定着させるのは難しく、それが企業の抱える「人材ミスマッチ」の核心です。

 

 

人を「軸」で見る組織づくり

内田さんが提唱されているのは、「社員一人ひとりに人生理念(パーソナルミッション)を言語化してもらい、それを企業理念・組織ビジョンと接続する」という方法です。このプロセスを通じて、個人の価値観が組織の軸となり、社員同士に共鳴が生まれます。

 

 

具体的な取り組みとしては、まず経営層が自らのビジョンや使命を明確に言葉にし、全社員に共有します。そして、社員が自分自身の人生理念を棚卸しし、「なぜ自分はこの会社で働きたいのか」「仕事を通じて何を実現したいのか」を問い直すワークショップを実施します。

 

 

ワークショップの流れは以下のとおりです。

  1. ライフラインチャート作成
    自身の過去から現在までの出来事を時系列で整理し、大切にしてきた価値観やターニングポイントを見つけ出す。

  2. ミッションステートメント作成
    ライフラインチャートをもとに、「自分が人生で大切にしたい価値観や使命」を一文にまとめる。

  3. 企業理念との照合
    自社のミッションやビジョンと、自分のミッションステートメントを擦り合わせ、どこが重なるのかをグループで共有し、意見を交換する。

  4. 行動計画立案
    自身のミッションを実現するために、日々の業務やプロジェクトで具体的にどのような行動を取るかを検討する。

 

これらのステップを通じて、社員は「この会社で働く意味」を再認識し、仕事に対する意欲が飛躍的に高まります。また、経営者側も社員の価値観を深く理解できるため、人材配置や組織設計をより適切に行えるようになります。

 

理念型経営の浸透と壁

理念型経営を実践する際にはいくつかのハードルがあります。

  1. 経営層の本気度
    理念を言葉にするだけでなく、自らが日々の意思決定や行動で体現し続ける覚悟が必要です。

  2. 時間とコストの確保
    ワークショップや対話型研修には一定の時間とコストがかかるため、短期的な成果が求められる中小企業ではハードルが高く感じられます。

  3. 組織文化の革新
    従来のトップダウン型文化や年功序列的な価値観が根付いている組織では、新しい仕組みを浸透させるための土壌づくりに時間がかかります。

  4. 評価制度との連動:理念型経営を定着させるには、日々の業務評価や昇進・昇格の基準にも理念を組み込む必要があります。

 

 

内田さんはこれらの壁を乗り越えるには、まず「小さな成功体験を積むこと」が大切だとおっしゃいます。たとえば、経営者自身が「自分の志」を日常業務で実践し、それを社内の事例として共有するだけでも、社員の意識に変化が生じるといいます。

 

「いきなり大きな改革を求めると、誰もついてきません。まずは経営者が自分の志を日常的に意識し、小さな ‘ともしび’ を社内に灯すことが重要です。」

 

 

こうした取り組みを積み重ねることで、理念型経営の壁を徐々に乗り越え、持続可能な組織風土を築くことができます。

 

5. 採用は “惚れ合うプロセス” である

ネッツトヨタ南国の挑戦

採用は企業にとって未来への投資です。しかし、多くの企業は「経験者なら誰でもいい」「資格さえ持っていれば…」というスタンスになりがちです。その結果、入社後にミスマッチが発覚し、離職が繰り返されるという悪循環が生まれてしまいます。

 

高知県の「ネッツトヨタ南国」は、そんな状況を脱却すべく斬新な採用プロセスを導入しています。同社では、1人の学生候補者に対し、面談や現場体験を含めて合計50時間をかけて対話するのです。具体的には、以下のステップを経ます。

  1. エントリーシートと一次面談
    書類選考と面談でおおまかなマッチングを図ります。

  2. 企業説明と工場見学
    内定前に工場や店舗を見学し、実際の働く環境を肌で感じてもらいます。

  3. OJT体験(先輩社員との現場同行)
    1〜2週間の短期アルバイト形式で、接客や整備補助などの実務を体験してもらい、先輩社員の働きぶりを間近で見ることができます。

  4. 複数回の1on1面談
    候補者、先輩社員、採用担当者が複数回に分けて対話を重ね、企業文化や価値観のすり合わせを行います。

  5. 最終面談とフィードバック:すべての体験を振り返り、候補者がどのような気づきを得たか、企業側がどのように感じたかを共有した上で、最終判断を行います。

 

このプロセスの肝は、「企業も候補者も、お互いをよく知った上で ‘惚れ合う’ 状態をつくる」ことです。候補者は先輩社員と一緒に働く中で「この会社で働きたい」という思いを固め、企業側は候補者の価値観や人柄を深く理解した上で採用を決めます。

 

ミスマッチを防ぐ情報開示

ネッツトヨタ南国では、「良い面だけでなく、悪い面も含めて正直に伝える」ことを重視しています。面談では、以下のようなリアルな情報もすべて共有されます。

 

  • 年間休日数が少ないこと

  • 繁忙期には残業が増えること

  • クレーム対応が大変な局面があること

 

こうした情報開示によって、候補者自身が「それでもこの会社で働きたいか」を自分で判断できるようになります。

 

「ミスマッチの多くは情報ギャップが原因です。表面的な待遇や数字だけで採用しても、仕事の本質や組織文化を知らないと入社後に挫折してしまう。だからこそ、ネッツトヨタ南国ではマイナス面も含めて伝え、『それでも本気で働きたいか』を問うようにしています。」

 

このように、透明性を高めることで、候補者と企業の双方が納得した採用が実現し、長期的な活躍につながるのです。

 

 

採用後のフォローアップと定着率

ネッツトヨタ南国では、内定後も手厚いフォローアップを行っています。入社前の半年間には内定者向けのオンライン1on1やグループ研修を実施し、入社後に感じるギャップをできるだけ小さくする工夫がなされています。さらに、入社後3年目まではメンター制度を導入し、先輩社員が定期的にサポートを続ける体制が整備されています。

 

 

これらの取り組みの結果、新卒定着率は90%以上を維持しており、一般的な地方中小企業の定着率(60〜70%程度)と比べても非常に高い水準です。

 

「子どもたちの夢を応援するのと同じように、社会人にも『働く夢』を失わない環境が必要です。ネッツトヨタ南国は、採用から定着までを一貫してサポートすることで、それを実現しています。」

 

「社員の子どもが入社したい」と思う組織へ

内田さんは、「ネッツトヨタ南国の究極の目標は、『社員の子どもがこの会社に入りたいと思うような会社』をつくることです」と話されます。これは、社員とその家族が会社に誇りを感じ、家族ぐるみで応援し合う環境を目指すという意味があります。

 

 

このような取り組みは、採用や定着率を高めるだけでなく、地域社会全体にポジティブな波及効果を生みます。社員家族の幸福度が向上すれば、地域の消費活動や交流が活性化し、結果として地域経済やコミュニティ全体が活気づく好循環が生まれるのです。

 

 

「会社が地域に根ざし、社員と家族を大切にすることで、地域全体が希望に満ちあふれます。そんな組織づくりを目指したいと考えています。」

 

6. 志から始める組織風土改革

船団経営という新たな組織モデル

内田さんが提唱する「船団経営」は、複数の中小企業がそれぞれ独立したまま、「共通の志」を基盤に連携し合うモデルです。各社が海を進む船の乗組員のように共通の目標に向かって協力し、互いの強みを生かし合って前に進むイメージです。

 

 

船団経営の主なメリットは以下のとおりです。

 

  1. リソースシェアリング
    人材やノウハウ、情報を共有することで、各社単独では難しいプロジェクトを共同で進められます。

  2. 採用・育成の共同プラットフォーム
    合同研修などを通じて、多様な価値観やスキルを学ぶ場を提供し、社員のキャリアパスを広げます。

  3. 地域ブランドの形成
    船団としての存在が地域のシンボルとなり、県外からの注目を集めることで企業誘致や観光誘発にもつながります。

  4. リスク分散:経済変動や市場変化によるリスクを分散し、安定した経営基盤を築きやすくなります。

 

 

共育(ともに育つ)×共創(ともに創る)の実践

船団経営は「共育×共創」を推進します。共育とは企業同士が社員の育成に協力し合うこと、共創とは共同で新しい商品やサービス、地域活性化プロジェクトを生み出すことを意味します。

 

 

静岡県内でも、数社が合同で「若手経営者塾」を立ち上げた事例があります。月に一度、船団に参加する経営者や幹部が集まり、お互いの経営課題や人材育成の手法をシェアし合うのです。成功事例だけでなく、失敗事例もオープンに共有し合うことで、深い学びが生まれます。

 

 

また、船団内で新規事業を共同で立ち上げる例もあります。ある企業が持つ農産物加工技術と、別の企業が持つECサイト運営ノウハウを組み合わせて、地域特産品のオンライン販売プラットフォームを構築しました。これにより、地域の若手農家と連携して販路が拡大し、地域経済の活性化にもつながりました。

 

 

静岡での展望と仲間づくり

静岡でも船団経営モデルを広げるため、内田さんは現在「仲間づくり」のフェーズに取り組まれています。具体的には、以下の施策を進めています。

 

  1. 説明会・勉強会の開催
    中小企業の経営者を対象に、志授業や船団経営の事例を紹介し、モデル導入のメリットを共有します。

  2. パイロットプロジェクトの実施
    志授業と企業の人材育成を掛け合わせた共同プログラムを立ち上げ、その効果を検証しながら改善を重ねます。

  3. オンラインコミュニティの構築
    経営者や人事・研修担当者が気軽に意見交換できる場をオンラインに設け、遠隔地の企業同士でもコラボレーションができる環境を整えます。

  4. 行政・金融機関との連携協定
    地域の金融機関や自治体と協力し、志育経営や船団経営に取り組む企業に対する支援メニュー(補助金、融資、専門家派遣など)を充実させます。

 

内田さんは、「仲間づくりは単なるネットワーク作りにとどまらず、志が共鳴する企業を増やすことが最終目標です」と語っています。志を持つ企業が集まることで、地域全体にポジティブな化学反応が生まれ、新たな産業や雇用を生み出す土壌が整うと信じているのです。

 

「静岡の中小企業は技術力やサービス品質に優れている会社が多いですが、それを発信し合い、共にチャレンジする場はまだ限られています。志でつながる船団を形成することで、相乗効果を生み、イノベーションを加速させたいと思います。」

組織文化を変えるリーダーの在り方

船団経営を実現するには、各企業のリーダーが自ら率先して組織文化を変革する必要があります。内田さんは、経営者に向けて以下のポイントを提案されています。

 

  1. リーダー自らの言動で示す
    経営者は、日々の意思決定や行動を通じて、自分の使命感や価値観を体現し続けることが求められます。

  2. 小さな成功体験を共有する
    志に基づく取り組みを少しずつ浸透させ、小さな成果を社内で共有することで、組織全体の意識を徐々に変化させます。

  3. 外部専門家を活用する
    志育ワークショップや組織診断など、必要に応じて外部の専門家を招き、組織改革を加速させます。

  4. 継続的な対話の場を設ける
    定期的に社員とリーダーが対話する場を設け、課題や改善点を率直に議論し合うことで、ボトムアップの意見も取り入れながら組織文化を進化させます。

これらを実践することで、企業内外に「志あるコミュニティ」を形成し、企業同士の連携を超えた地域全体への波及効果を生み出すことが可能になります。

 

7. 「憧れられる大人」になるために

経営者としてのスタートライン

志ある経営を目指すには、経営者がまず「5年後の採用に責任を持つ覚悟」を固めることが大切だと内田さんはおっしゃいます。

 

「5年後、あなたの会社で中核として活躍している人はどんな人物でしょうか?その人が会社にどんな価値をもたらしているかを具体的にイメージできるかどうかが、採用成功のカギです。そのイメージがはっきりしないと、必要な人材像が曖昧になり、ミスマッチが起こりやすくなります。」

 

経営者には、自社のビジョンやミッションを明確にし、それを実現するためにどのような人材が必要かを言語化する責任があります。5年後の組織の姿を描くことで、現在求めるべきスキルや価値観が見えてくるのです。

 

 

自分の「志」を言語化するプロセス

自分の「志」を言葉にするプロセスは一度で終わるものではありません。以下のステップを繰り返しながら、経営者自身が自分の原点や価値観を深掘りしていくことが求められます。

 

  1. ライフラインチャートを作成する
    これまでの人生を振り返り、転機やターニングポイントを整理します。そこから、自分が大切にしてきた価値観や原体験が見えてきます。

  2. ミッション・ステートメントを作る
    ライフラインチャートを基に、「自分が社会に対して果たしたい使命」や「大切にしたい価値観」を一文にまとめます。

  3. 事業プランとの照合
    自社の事業戦略やビジョンと、自分のミッション・ステートメントが合致しているかを確認し、必要に応じて計画や組織体制を見直します。

  4. 社内外への発信
    ミッション・ステートメントを社内で共有し、社員やステークホルダーとの共感を育むための対話の場を設けます。

  5. 日常の行動で実践する
    経営判断や人事判断、社内外のコミュニケーションにおいて、自分の「志」を意識し、一貫性のある言動を続けます。

これらを繰り返すことで、自分の「志」を深く腹に落とし、それが自社の文化や価値観に浸透していきます。

 

社員・子ども・地域に向けたメッセージ

経営者は、自分の「志」を言語化し、社内で共有したうえで社員やその家族、ひいては地域全体に向けてメッセージを発信することが重要です。内田さんは次のポイントを挙げています。

  1. 社員に向けたメッセージ
    会社のビジョンと自分の志が融合したストーリーを示し、その価値に共感できる人材を採用・育成します。ミッション共有イベントやワークショップを開催し、社員が自ら「自分の志」を語る場をつくります。

  2. 子どもたちに向けたメッセージ
    地元の学校や地域イベントで社会人講演を行い、「働くことの意義」「地域に貢献する喜び」を語ります。自社の社員とその家族を巻き込み、次世代を奮い立たせるプログラムを企画します。

  3. 地域社会に向けたメッセージ
    商工会議所や自治体と連携し、地域活性化プロジェクトやイベントを共催します。メディアを通じて自社の取り組みや地域への想いを発信し、共感の輪を広げます。

 

特に子どもたちに向けたメッセージは、「憧れられる大人」の姿を示すうえで欠かせません。

 

「子どもたちは、大人の言葉だけでなく、その背中からも多くを学びます。経営者が自分の失敗や挫折を隠さず、『こんなときにこう乗り越えた』というリアルな体験を共有することで、子どもたちの未来に大きな影響を与えられるのです。」


内田さんは、経営者が地域において「憧れられる大人」として立つことが、教育と経営をつなぐ第一歩だと考えられています。

 

「無限の可能性」を相手に見る覚悟

インタビューの最後に、内田さんは視聴者に次のメッセージを贈りました。

 

「全ての人が“一隅を照らす力”を持って生まれています。子どもも大人も、誰もが何かの光を秘めています。それを相手から見出し、信じるかどうかが、教育者や経営者として問われる瞬間です。相手を『無限の可能性がある存在』として扱う覚悟があれば、組織も社会も大きく変わっていきます。」

 

 

この言葉には、内田さんが教え子や社員、クライアントと向き合う中で築かれた確信が込められています。人の可能性を信じ、支え続ける姿勢こそが、未来を築く礎になると改めて示されています。

 

 

 

8. おわりに──経営と教育の未来は「志」でつながる

今回のインタビューを通じて、教育と経営は切り離せない関係にあることがはっきりしました。子どもたちが健やかに成長し、社会の担い手として自立するには、「憧れられる大人」としての企業や経営者の存在が不可欠です。同時に、企業が持続的に成長し、地域に貢献し続けるためには、若い世代に「働くことの意義」を示し、自社の文化や価値観を未来へ継承することが求められます。

 

 

「理念なき経営は続かない」「憧れなき大人に子どもは未来を託せない」──この二つの真理は、教育と経営が交差するポイントにあります。志を持つ経営者が自らの使命を明確にし、社員や地域と共有することで、組織の文化は変わり、地域全体にポジティブな波及効果が生まれます。

 

 

この記事をお読みになった経営者の皆さまには、ぜひ自分の「志」を見つめ直し、言語化し、社内外に発信いただきたいと思います。志は一度定まれば、行動と継続によって確かなものになります。5年後、10年後にどんな組織をつくり、どんな社会を実現したいかを描き、そのビジョンをもとに今すぐ一歩を踏み出してみてください。

 

 

「経営=教育」「採用=未来投資」という視点を持つことで、企業と教育は互いに高め合い、新たな価値を生み出せます。志を胸に、挑戦するリーダーたちの舞台裏から得た知見を、自社や地域の発展に役立てていただければ幸いです。