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AIに「経営の万有引力を探して」とお願いしてみたら — 経営コンサルタントがClaude Fable 5と過ごした、ある一日の記録

 

経営コンサルタントという仕事をしていると、いつも頭の片隅に引っかかっている問いがあります。

 

「経営の法則って、本当はもっとシンプルなんじゃないか?」

 

ドラッカー、ポーター、SWOT分析。先人の理論はどれも素晴らしいのですが、現場で使っていると、どこか「後づけの説明」のような感覚が拭えないことがあります。ニュートンが万有引力ひとつで惑星の動きを説明したように、企業の生き死にも、ごく少数の法則で説明できたりしないだろうか——。

 

 

そんな長年の妄想を、AnthropicのAI「Claude Fable 5」にそのままぶつけてみました。今日はその体験記です。

 

こんな無茶なお願いをしてみた

お願いした内容を要約すると、こうなります。

既存の経営理論はいったん忘れてください。企業を「人が意思決定する組織」ではなく、惑星運動のような自然現象として扱ってほしい。最小限の基本法則だけを決めて、社員5人・資本金100万円・顧客3社の会社を10年間シミュレーションしてください。利益や組織文化や倒産や事業承継が、法則から「勝手に」生まれてくるかを見たいのです。

 

我ながら、人間の研究者に頼んだら苦笑いされそうな依頼です。正直、それらしい理論を美しい文章にまとめて返してくるだろうと予想していました。

 

予想は、いい意味で裏切られた

Fable 5は、文章を書き始めませんでした。代わりに、プログラムを書き始めたのです。

 

信頼・現金・知識・士気といった「経営の基本粒子」を定義し、「信頼は複利で増える」「現金は信頼からしか生まれない」といった4つの法則だけで動く仮想の会社を、コンピュータの中に建てはじめました。

 

面白かったのは、一発ではうまくいかなかったことです。最初のバージョンでは、シミュレーション内の会社が全社、数ヶ月で倒産してしまいました(人件費が売上を上回っていたのです)。直したら今度は、10年で現金24億円という現実離れした急成長。そのたびにFable 5は自分で結果の数字を眺めて、「紹介の連鎖が効きすぎている」と原因を突き止め、修正していきました。

 

途中には、こんな場面もありました。事業承継の実験で、創業7年目に社長を退任させても会社がほとんど揺らがない。普通ならそのまま報告してしまいそうなところで、Fable 5は「承継が危ないのは、会社が生死の境界線の近くにいるときだけなのでは」と仮説を立て直し、実験のやり方そのものを変えたのです。自分の失敗に自分で気づいて、実験計画を修正する。 この姿は、優秀な若手研究者と仕事をしているようでした。

 

 

最終的に回ったシミュレーションは、684回。パラメータを少しずつ変えた比較実験から、会社の生死を分ける「境界線の地図」まで出てきました。

 

出てきた「法則」が、現場の実感と重なって驚いた

納品されたのは10章立ての研究報告書と図表、そしてプログラム一式でした。中身のいくつかは、20年近く中小企業の現場を見てきた人間として、思わず唸るものでした。

 

会社の生死は、割り算ひとつでほぼ決まっていた。
「最初の月商 ÷ 毎月出ていくお金」が一定の値(このモデルでは約0.6)を超えていれば生き残り、下回ると何をしても届かない。境界は驚くほどくっきりしていて、水が0℃で凍るのと同じ「相転移」のような形をしていました。創業支援の現場で感じてきた「勝負は開業前についていることが多い」という感覚と、きれいに重なります。

 

資本金は、ほとんど結果を変えなかった。
最低ラインさえ超えていれば、資本金を6倍にしても10年後はほぼ同じ。お金が買えるのは「時間」だけで、成長を買えるのは信頼の増え方と紹介のご縁だけ——。融資や増資のご相談を受けるたびに感じてきたことが、数字で出てきた格好です。

 

 

そして何より、誰もプログラムに書き込んでいないのに、創業期の「死の谷」、仕事が社長に集中する属人化(と、成長にともなう自然な解消)、人を増やし始めた途端に社風が薄まる「30人の壁」のような現象が、勝手に画面の中に現れました。属人化は「治すべき病気」ではなく小さな会社の自然な姿だ、という結果には、少し救われる思いすらしました。

 

鵜呑みにしてはいけない、いう慎重さ

念のため書き添えると、この「臨界値0.6」といった数字を、実際の創業判断にそのまま使うことはできません。あくまでAIが設計した模型の宇宙の中でのお話です。競合他社も、借入金も、コロナのような外部ショックも、この模型にはまだ存在しません。

 

 

ただ、感心したのはFable 5自身がそのことを一番よく分かっていたことです。報告書には「このモデルで説明できない現象」「モデルが破綻する条件」という章がきちんとあり、できなかったことを隠さずに書いてありました。成果を盛らない誠実さは、人間のコンサルタントも見習うべきかもしれません。

 

コンサルタントとして感じたこと

一日つきあってみて感じたのは、AIとの関係が「文章を書いてもらう」段階から、「一緒に考えて、実験してもらう」段階に入りつつあるということです。仮説を投げると、実装して、試して、失敗して、直して、正直に報告してくる。私たちの役割は、その結果を現場の実感と照らし合わせて吟味する「査読者」に近づいていくのだろうと思います。

 

そして皮肉なことに、AIが出してきた結論は、コンサルタントの仕事の核心を言い当てているようにも読めました。企業を救うのは立派な戦略ではなく、信頼が複利で増える仕組みと、資金が尽きる前にそれが追いつくかどうかの見極めである——。日々お客様にお伝えしてきたことと、そう遠くない場所に着地したのです。

 

20年近く頭の隅に転がしていた妄想をひとつ、片づけました。朝に思いつきを投げて、夕方には684回分の実験結果と報告書が手元にある。かかったのは一日と、コーヒー数杯。昔なら研究室と予算が要った話です。

 

 

答えが出たとは言いませんが、心のあるモヤッとした問いを、AIを使って具体化することの面白みを感じた1日でした。